当ブログでは、様々な情報を提示していこうと考えています。具体的なイメージとしては
自分の考えを整理するため、英語の論文を翻訳し
その内容を要約した上で引用してブログに掲載
自分で言うのもなんですが、これは問題の無い事なのでしょうか?
この疑問を考えるうえで、避けてはいけないのが著作権や引用に関する問題です。
私自身は、大学院や各所属団体で著作権に関する講義等を受ける機会もありましたが、改めて現在の著作権に関する情報を整理していきたいと思います。
ここでは、以下の様な疑問を解決していきたいと思います。
- そもそも著作権とは?引用とは?
- ブログ上で引用を行うことは問題ないのか?
- 引用を営利目的で行って良いのか?
- 引用を行うための要件とは?
- 英語論文を翻訳・要約して良いのか?
私は弁護士等の資格をもっておらず、法律を専門的に学んできた訳でもありません。
あくまで、ブログを運営していくために著作権について学んだ上で、プライバシーポリシーの補足として当方の方針を示しているのが今回の内容です。
著作権に関しては様々な裁判も行われており、法律の解釈も判例ごとに異なる部分もあります。
申し訳ありませんが、当ブログの内容を元にトラブルが生じたとしても当方は責任を持てません。
著作権法に関しても、平成30年・令和2年と改正されており、常に新しい情報を得ておかなくてはいけません。
この内容も今後修正していく必要があると思いますので、あくまで1つの目安としてご覧ください。
以下、読み飛ばしてもらって構いませんが、最初から最後まで読み進めてもらえると話が繋がるはずです。
ぜひ御時間がある方は最期までお付き合い下さい♪
引用とは?
タイトルにある引用とは何のことなのか、イメージの沸かない人もいるかと思います。
引用とは、自分の考えを補足したり証明する為に、他の人の文章などを持ってくる事です。
では、具体例を以下に記します。
引用とは、次のような意味の言葉です。
人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること。
Weblio辞書.GRASグループ株式会社(2022年2月10日参照)
https://www.weblio.jp/content/%E5%BC%95%E7%94%A8
これがまさに引用です。
今、上の文章では引用という言葉の意味を「Weblio辞書」というインターネット上のサイトで調べて
「Weblio辞書の文章」を「私の文章と区別して」上の背景色の異なる部分に記しました。
このように、自分の考えを補足したり証明する為に、他人の文章などを持ってくることが引用だと言えます。
・・・他人の文章を自分のものにするようで、なんとなく悪い事しているみたいですね苦笑
では、引用が悪い事なのか明らかにするために、次は引用が法律でどのように定められているか以下に示します。
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
「著作権法 第三十ニ条」e-Gov 法令検索(2022年2月10日参照)
https://developer.e-gov.go.jp/contents/specification/
ここでは、日本の法律の1つである著作権法の内容の一部を引用させてもらいました。
・・・文章を読んでも、訳が分かりませんよね苦笑、最初は私も良く分かりませんでした。
頑張って、もう一度読んでみて下さい。
簡単にまとめると、著作物(他人の創作物)はルールを守って引用して利用する事ができる。
ということであると読み取れます。実は上の文章もルールに従って引用しています。
そのルールを考える為には、上の文章の元となっている著作権について考えなくてはいけません。
著作権に関して
世の中には、発明・アイデア・創作物など様々な知的財産があふれています。その中でも
「思想又は感情を創作的に表現したもの」を著作物といい、著作物を創作した人を著作者と言います。
この著作物の定義、最後の最後で再登場してきます。ちょっと覚えておいて下さい。
この著作物と著作者を守る為の権利が著作権であり、その権利を守る為の法律が著作権法です。
著作物の具体例としては以下のような事例があります。
- 言葉に関する著作物
論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演など - 音学に関する著作物
楽曲、歌詞など - 美術に関する著作物
絵、マンガ、彫刻、書道作品など - 映像に関する著作物
写真、映画、テレビ、ネット配信動画、ゲームなど - その他の著作物
コンピュータプログラム、ダンス振り付けなど
これらの著作物は著作者のものであり、勝手に使ったり複製したらいけません。
著作物を使いたいときは、きちんと著作者に許可をもらって下さいね。というのが著作権の概要です。
最近インターネットで音楽や漫画が無断でダウンロードされて問題になっているのも、この著作権が侵害されていることが原因です。
逆に創作性がなく、著作物とみなされないものや、著作物ではあるが著作権の目的とならないものには次のような事例があります。
- 客観的な事実、データなど
例)2021年に東京でオリンピックが開催された、8月の平均気温は27.4度だった。 - 憲法や法令、訓令など、裁判所や国または地方公共団体が作成するもの
- 著作権の保護期間の過ぎた著作物
例)宮沢賢治の作品
法律が著作権の目的とならない、という事は今回調べてはじめて知りました。
この、著作物としてみなされない事例も最後の最後に再登場します。
基本的には、上記の内容に関しては自由に使用できると考えて問題ないと思われます。
ただ場合により、著作権の侵害や著作権とは異なる権利の侵害をしてしまう可能性はあります。
やはり人様の物を使わせて頂くうえで、注意や配慮は常に必要だと私は考えます。
著作権の例外 ー 引用について ー
著作権を踏まえると、他人の文章を持ってくる引用は、やっぱり悪い事なのでしょうか?
いえ、決してそんなことはありません。著作物等を利用するときに、どんな場合でも著作者の許可を得たり
使用料を支払わなければならないのであれば、客観的な事実や法律の事しか表現できなくなってしまいます。
これでは何をするにも許可が必要となり、かえって文化の発展が妨げられてしまう可能性があります。
そのような事態を避けるために、著作権では例外的に「著作物が自由に使える場合」を決めています。
その中の1つが「引用」と定められているのです。ここで再度、著作権法から引用の内容を持ってきます。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
「著作権法 第三十ニ条」e-Gov 法令検索(2022年2月10日参照)
https://developer.e-gov.go.jp/contents/specification/
何度読んでもピンとこない文章です苦笑 ただ、ここまで読み進めてきたのであれば
最初の「著作物は引用して利用することができる」という部分を読んで
著作物を引用して使う事は法律で許されているのだと、少しは安心できるはずです。
しかし、そのあとに続く内容を読んでみると、難解な表現になってきます。
「引用は、公正な慣行に合致するものであり」
「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」
・・・う~ん、どういう事でしょうか?苦笑
この時点で、私は文化庁のサイトや法律とにらめっこするのを諦めました。
法律の内容を理解するには、やはり専門家の力が必要不可欠です。
そこで、私は弁護士や大学の大学の教授が著作権について書いた本などをいくつか調べてみる事にしました。
そこで分かった事があります。
- 法律の解釈に100%の正解はないという事
- 引用の要件に関して、様々な見解があるという事
(大谷の個人的な見解です)
私も社会人になって「世の中、白黒分けられないグレーな部分が多い」事を痛感しながら生きてきました。
法律にも明確な答えがないからこそ、裁判が行われたり、法律自体が改正されるのだから、当たり前といえば、当たり前です。
しかし、このまま「良くわからない」で終わらせてはいけません。
当ブログを運営していくうえで、きちんと引用に関する方針を決めなくてはいけません。
ここから先の内容は、2021年に出版・改版された著作権に関する書籍などを参考にしました。
これから出てくる様々な見解は、書籍の中において、架空の条件での法律の運用を想定した上での見解です。
細かな条件が変われば、専門家とはいえ見解が変わるのは当然です。
以下の内容は、あくまで書籍を元にした大谷個人の見解である事を御了承下さい。
引用の要件
引用に関する過去裁判事例をもとに、著作権法を解釈したうえで引用の要件が検討されています。
もちろん、弁護士の方によってニュアンスは少しずつ異なる部分があって然るべきなのは承知の上で
私自身が納得できた引用における要件の一例を以下に提示します。
(1)明瞭区分性
上野達弘(編),教育現場と研究者のための著作権ガイド,p159,有斐閣,2021年
(2)主従関係が必用である
(3)公表された著作物であること
(4)公正な慣行に合致すること
(5)引用の目的上正当な範囲内で行われること
(6)出典を表示すること
(7)改変の禁止
※引用部分を一部省略
ぼんやりとしていた著作権法の内容と比べ、少し具体的になってきました。
では、それぞれ説明していきたいと思います。
明瞭区分性
引用している部分とそれ以外の部分をしっかりと区別させることです。
「 」カギカッコで区別する
❝ ❞ クォーテーションで区別する
下地の色を変えて区別する
他にもフォントを変えて区別するといった方法もあると思いますが
方法はどうあれ、中途半端にせず明確に区別する必要があると思います。
主従関係が必要である
引用して利用する側が「主(メイン)」、引用される側が「従(サブ)」という関係が必要という事です。
・絵画の画像を引用した場合、その画像自体が読者の目を引く場合
・本の内容を全てコピーして、サイトで全文を紹介する場合
このような場合は、引用される側が主(メイン)となってしまいます。
この主従関係に関しては、「従とはどのような意味なのか?」を理解しなくてはいけません。
以下は、この問いに対するある1つの見解です。
他人の著作物の利用が,「報道,批評,研究その他」という目的に行われる場合です。そして,従とは,この目的の範囲内にある行為だということです。
北村行夫,雪丸真吾(編), Q&A引用・転載の実務と著作権法〈第5版〉,p87,中央経済社,2021年
基本的には引用は自分の考えを補足したり証明する為の行為です。
その目的に沿った運用であれば問題はないはずですが、目的には「その他」という文言がある為に解釈は難しく
引用の分量に関しても、「全体の何%以上はダメ」なんて基準があるわけではありません。
引用にあたって、この主従関係の解釈が一番難しいと思いますが
少なくとも当ブログでは、主に私が学んできた事を整理していく上で、
「自分の考えを補足したり証明する為」に様々な引用していこうと考えています。
さらに、もう一点明確にしておきたい部分があります。
「引用営利目的で行ってはいけないのか?」
ここに関しては、以下の見解を参考にしたいと思います。
非営利であることは要件となっていないので,営利目的があっても適法に引用する事が可能である。
上野達弘(編),教育現場と研究者のための著作権ガイド,p163,有斐閣,2021年
簡単に言えば、「ダメとは書いてないから、やってもダメではない」という事です。
ホント法律って、そうゆう部分がありますよね苦笑
私は、今まで何度か講師依頼を受け謝礼を頂いてきましたが、資料の中で他人の研究論文を引用してきました。
このようなケースでの引用も認められるのであれば、助かった。というのが本音です。
また、すでに私はブログ上で支援を募っていますし、今後は広告等の設置も検討しています。
この点に関しても、ここで明確にしておきたかったので勉強になりました。
公表された著作物であること
著作権法では、著作物は以下のような形で「発行」された場合において「公表」されます。
・出版
・インターネット上にアップロード
・上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示
また具体的な目安として、文化庁の「登録の手引き」では以下のような基準が挙げられています
・50 部以上の著作物の複製物が頒布
・50 人以上の人が著作物を見たり聞いたりした
ここで私が気を付けなければいけないと感じたのが「修士論文」に関してです。
大学院では、自分で研究を行い論文をまとめる事となります。大学の卒業研究みたいなものです。
文部科学省では、大学院の後期課程である博士課程の論文には公表を義務付けていますが
修士論文に関しては明記されていません。大学院時代に他人の修士論文を引用して
指導教員に「ちゃんと選んだ論文なのか?」と問い詰められた苦い思い出がありますが苦笑
修士論文は公表が義務付けられていないので、その辺りに注意が必要だったという事にしておきたいと思います。
公正な慣行に合致すること
慣行とは、ならわしとして通常行われていることですが、各分野において異なります。
引用は目的や分野、社会背景を踏まえて適切な方法で引用しなければいけません。
その具体例を交えながら、残り3つの要件を説明していきたいと思います。
引用の目的上正当な範囲内で行われること
先ほど主従関係の部分で、引用の分量に明確な基準がないという話をしたかと思います。
基本的には、引用部分が大きくなり過ぎると主従関係が逆転してしまうので望ましくありません。
しかし、引用の正当な範囲は目的や分野によって異なります。
・小説を全て引用してくる場合
⇒正当な範囲内とはいえない
・1枚の写真をそのまま引用する場合
⇒正当な範囲内といえる
これは4つ目の要件の「公正な慣行」にも繋がります。
基本的には主従関係を意識しつつ、自分が行おうとしている引用が無理のない範囲なのか、前例を調べたりする事も必要かと思います。
出典を表示すること
出典とは引用の出所を記載したものです。先ほどの引用でいえば、以下の部分です。
「北村行夫,雪丸真吾(編), Q&A引用・転載の実務と著作権法〈第5版〉,p163,中央経済社,2021年」
著作者の名前や、著作物のタイトル、発行した期日などが記載されています。
出典の表示に関しては、著作権法で要件付けられている訳ではありません。
しかし、分野によっては出典の表示を求められているものもあるため
4つ目の要件の「公正な慣行」に則って、必要な場合は出典を表示する必要があります。
記載の方法は、引用する分野に合わせましょう。以下のように色んなパターンがあります。
・著者名,タイトル,ページ,出版元,発行年
⇒論文や書籍など
・「copyright+企業名」
⇒画像提供サイトの写真など
・表示不要
⇒無料の画像提供サイトなどで、出典不要の場合
特に無料の画像提供サイトは出典の扱いに関して各々異なるので
引用の際は出典の条件を十分に確認する事で後でトラブルにならないよう注意が必要です。
改変の禁止
著作権の中には、同一性保持権という著作物及びその題号の同一性を保持する権利があります。
著作者の意に反した著作物の変更、切除その他の改変を受けないという権利です。
引用するなら、内容を変えずにそのまま使いなさい。という事ですね。
しかし、「やむを得ないと認められる改編については著作権の侵害とならない」とも記載されています。
例えば、引用部分を強調する為に傍点をつけたり、一部を省略して良いのでしょうか?
この点に関しては、以下の見解を参考にしたいと思います。
ただし,傍点や省略については,変更された箇所が元の著作物の一部であると誤解されるおそれがなければ「改変」に当たらないとの理解が可能である。
上野達弘(編),教育現場と研究者のための著作権ガイド,p178,有斐閣,2021年
ここまでの内容の中でも引用部分を太字で強調したり、文章の一部を省略して箇条書きのようにまとめたりしています。
しかし、もし著者の方が「ここまで協調されたり省略されたら、本来の内容と変わっている!」と感じればトラブルとなります。
あくまでも「やむを得ないと認められる改変」でなくてはいけないので、必要最低限にしなくてはいけません。
以上7つの要件に分けて説明してきましたが、決して7要件それぞれが独立している訳ではありません。
型にはめて考えずに、総合的に判断して引用を行う事が重要であると私は思います。
英語論文の翻訳・要約
なんとか著作権や引用について情報がまとまってきたので、いよいよ最初の疑問に立ち戻りたいと思います。
自分の考えを整理するため、英語の論文を翻訳し
その内容を要約した上で引用してブログに掲載
「ブログに掲載」という部分はひとまず置いておいて、英語論文を翻訳。要約した上で自分の論文に引用する事は
少なくとも私が身を置いていた医学系の研究の世界では、一般的に行われている事です。
ちょっと具体例を載せてみたいと思います。
↓↓↓ 以下、論文の要約・引用部分 ↓↓↓
・・・・Kellyらは、成人男性を対象にした研究において、足部への荷重負荷が増加するに従い母趾外転筋の筋電図の積分値が高まるという結果を報告した1)
私は「母趾外転筋をトレーニングさせる為には荷重をかけた状況の方が効果が高い」と考えています。このKellyさんの研究は、私の考えを裏付ける「1つの理由として」要約の上で引用させてもらいました。これを踏まえて、私は母趾外転筋をトレーニングする為に次のような手段を選択しました。
・・・どうでしょうか?なんとなくイメージできたでしょうか?
「黒文字と図表の部分がKellyさんの文献からの引用」「赤字が大谷の主となる文章」です。
こんな感じで、自分の論文中に外国人のKellyさんの研究の内容を要約して引用します。
引用部分には上付きで小さく1)と番号を振ったり、図の説明に引用について明記します。
そして、自分の論文の最後に文献リストとして引用した論文の出典を記載します。
【引用文献】
1)Kelly LA, Andrew G. Cresswell, Sebastien Racinais, etal.:Intrinsic foot muscles have the capacity to control deformation of the longitudinal arch. J. R. Soc. Interface 11.2014
細かな記載方法は、論文を投稿する出版社や所属する機関の取り決めなどによって異なりますが、大きな流れは変わらないはずです。
英語論文の翻訳に関して
自分の考えを整理するため、英語の論文を翻訳し
その内容を要約した上で引用してブログに掲載
では、当ブログで想定していた上のようなケースは問題がないのか?考えてみようと思います。
まずは前半部分、「自分の考えを整理するため」は著作権における引用の目的「研究その他」に当てはまると私は考えます。
その延長線上に、学んだ引用した内容を用いた講演やブログ広告で収入を得る可能性がある事に関して。
引用自体に非営利を要件とする明記がない事を踏まえ、「引用した論文」がブログの主体とならないように注意しなくてはいけません。
その上で、「論文を元にした大谷の考え」がブログのコンテンツとなる ように注意して運営していきたいと思います。
次に英語の翻訳に関して、これは引用の要件の「改変の禁止」に当たりそうですが
著作権法で引用において翻訳を行う事は認められています。(47条の6第1項2号)
また、外国の著作物は日本の著作権で守られる、とされています。(文化庁,著作権テキスト〜 初めて学ぶ人のために 〜)
大学院等の研究においても外国の論文の引用が当たり前に実施されている事を踏まえても、この点は問題ないと思われます。
最後に残った「要約して引用」ここが非常に重要な部分となります。
要約に関して
要約とは著作物の内容から要点をまとめて短くすることです。引用の要件にある「改変の禁止」に当てはまりそうですね。
申し訳ありませんが、具体的に英語論文の引用を想定した場合における専門家の見解は見つけられませんでした。
そこで「入試問題において、著作物を要約して利用することは可能か?」という問いに対する1つの見解を提示します。
要約が元の著作物の文章を損なわない相当な態様で行われており,かつ,要約がなされていることが明示されていれば,可能と解する。
上野達弘(編),教育現場と研究者のための著作権ガイド,p150,有斐閣,2021年
まず、著作権法の中で、「要約」という言葉は出てきません。
過去の裁判の判例では「要約を認める」ものと「要約を著作権の侵害とする」ものが混在しています。
これらの事例を踏まえて、「要約は元の著作物の内容を崩さない」「要約の事実を記載する」事が重要となります。
この要約に関する注意点、当たり前の事と感じる方が多いかと思いますが、大谷個人としては「守られていないパターンが多い」と感じます。
例えば、論文の中で要約・引用された部分を呼んで、実際に引用元の論文を読んでみると、まるで見当違いの内容であるケースが多々あります。
特にSNS上に溢れている情報には細心の注意を払う必要があると私は考えています。
上で例示した引用だって、「大谷が要約したもの」である以上、元のkellyさんの論文の内容を100%反映している訳ではありません。
引用元の著作物(論文)と自分の要約が解離しないよう、注意しないとトラブルになる可能性があります。
そもそも英語論文を正確に理解する為には、正確な翻訳する事はもちろん、その分野における専門的な知識も必要です。
その上で、「元の論文の内容を崩さずに、要点を整理して短くまとめる」要約は、非常にセンスのいる作業だと私は考えています。
「要約の事実の記載」に関して、学術論文の分野では「要約は当たり前の事」なのか、要約の事実が明記してある事は少ないように感じます。
ただ、ブログ上は学術論文のような作法は必要ないので、著作権の侵害とならない様に要約の事実を明記しておきたいと思います。
また、要約に関しては次のような見解を述べている方もいました。
現時点においては,原著作物の創作性を利用して新たな著作物を作り出したうえで,これを利用することは,翻案権侵害となる
北村行夫,雪丸真吾(編), Q&A引用・転載の実務と著作権法〈第5版〉,p99-100,中央経済社,2021年
(中略)
要約文が,原著作物の創作性を利用している場合には「翻案」にあたるため,原著作者の許諾がない限りこれを利用することはできない
ここで、「翻案権」という言葉が出てきました。「翻案」とは、元々の著作物の大筋を変えずに細かい点を修正する事です。
上で述べたように、著作権法の中で「要約」という言葉は出てきません。いくつかの裁判では、要約を翻案としてとらえられています。
そして重要なのが、著作権法で引用における翻案は認められていない ということです。(47条の6第1項2号)
そして、要約が翻案とみなされない為には、創作性を利用しない事が重要となる。というのが先程の見解です。
この「創作」という言葉、最初の方に出てきたのを覚えているでしょうか?笑
・・・そもそも著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」です。思い出しましたか?
つまり、創作性があり著作物とみなされない物を要約すれば翻案にあたらず、著作権を侵害しない。と考えられます。
「著作物である学術論文を要約したい」のに「著作物とみなされない部分を要約しろ」なんて、とんち話のようです苦笑
しかし、研究論文の要約・引用に関しては、ここは重要な点だと私は思います。
では、いよいよ最後の総まとめに移りたいと思います。
翻訳・要約まとめ
※改めて述べますが、あくまで大谷の個人的な見解である事を御了承ください。
要約が可能である「創作性がなく著作物とみなされないもの」これも最初の頃に出てきましたが、覚えているでしょうか?
大きく3つ提示しましたが、この場で重要となるのは以下の項目
「客観的な事実、データなど」です
私は、ここが繋がって頭がクリアになりました。つまり、研究におけるデータは、著作物とみなされない(可能性が高い)
また、「~な実験をしたら○○となった」という研究における結果も、客観的な事実であり著作物としてみなされない(可能性が高い)
という風に考えられるので、そもそも要約・引用に対する著作権侵害のリスクは低いと私は思います。
たまに論文の引用でみかける「先行研究では、△△(研究者)は・・・(考察内容)と述べている」という形。
これは、考察を元に研究者の思想を要約しているので好ましくない要約 だと私は考えます。
どうでしょう?ここまで読み進めたら皆さんも同じ印象を持たないでしょうか?
これまでを踏まえて、私の考える「英語の論文を要約する上で注意すべき要件」を以下に提示します!
- 要約は元の著作物の内容を崩さない
⇒翻訳の際は細心の注意を払う - 要約の事実を記載する
⇒引用と要約を混同しないように注意 - 事実である研究の結果やデータを要約する
⇒著作者の「個性」が現れていないか注意
これでようやく、英語論文の要約・引用に関する当ブログの方針がまとまりました。
今回の投稿に当たってお世話になった書籍を紹介させて頂きます。著作権に関する幅広い事例が挙げられていますので、興味がある方は是非一度手に取って内容を確認してみて下さい。
さいごに
私は大学・大学院で学んでいく中で、「著作権は最低限理解して引用できる」という自信を持っていました。
しかし、今回ブログ開設にあたり、著作権や引用に関して情報を整理していく事で、「私は過信していた」と反省しました。
不慣れな法律の分野の情報を整理するのは大変な作業でしたが、おかげで著作権や引用に関する認識をアップデートできました。
しかし、最初に述べたように、今回の内容はあくまで一つの目安でしかありません。
引用した専門家の見解だって、あくまで書籍の中で想定された限られた条件での見解です。
悪い意味でいう訳ではありませんが、途中で挙げた引用も決して鵜呑みにせず。
困ったら弁護士の方に直接相談するようお願いいたします苦笑