私の保有資格シリーズも第3弾となりまりた。
私が「スポーツ現場で生きていくために」取得した資格は以下の通りです。
・理学療法士
・修士号(医科学)
・日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
・Certified Strength and Conditioning Specialist:CSCS
これまで、それぞれ理学療法士編と修士号編で説明をさせて頂きました。
今回は、私が取得した日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格について説明をさせて頂きたいと思います。
ちなみに、資格を取得する具体的は方法は、他ですぐに調べられるので今回は割愛します。
※私は2017年から日本スポーツ協会の養成講習会を受講しており、今回の情報は、当時の資料を元にしています。
2022年1月27日にATカリキュラム改訂に関する情報が公開されました!(詳しくはこちら)
これに伴い、今回の投稿内容にも今後修正が必要となるかもしれません苦笑
あくまでも、大谷が取得した2017年当時の話である事を御了承下さい。
トレーナーとは?
私は、理学療法士として医療機関に勤務しつつスポーツ現場でアスリートのサポートに臨んできました。
そのようなスポーツ現場活動の際には、自分の立場を「トレーナー」と名乗っていました。しかし、トレーナーという言葉の定義は明確ではありません。
ライザップのようにダイエットなどのボディメイクを指導してくれる人間のことをトレーナーと呼んだりもしますね。
恐らく、この文章を読んでいる方の多くは、トレーナーという言葉に対し
・テーピングを巻いてくれる人
・マッサージをしてくれる人
・トレーニングを教えてくれる人
・怪我の応急処置をしてくれる人
など「アスリートをサポートする人」というイメージを持っているのではないでしょうか?
古くからスポーツの現場で「トレーナー」と呼ばれる方々は活躍しており、1932年のロサンゼルス五輪の日本代表チームスタッフの中にトレーナーという肩書が挙がっています。(日本水上競技連盟,月刊水泳,No.12,p19,1932.)
文中において当時のトレーナーの役割を知る事は出来ませんでしたが、実際には更に昔からスポーツ現場でトレーナーと呼ばれる人間がいたのだと考えられます。
英語のトレーナーTrainerの意味を調べてみると「指導者・調教師・訓練するもの」といった意味が出てきます。
しかし、Trainerという言葉は単体で使われるには意味が広いように感じます。
・Dog trainer:犬の訓練士
・Army trainer:軍隊の教育係
・Boxing trainer:ボクシングジムの指導者
・On-the-job trainer:業務上の指導係
・Pokemon trainer:ポケモンのトレーナー
上記の様に、組み合わされて始めて具体的な意味をなす言葉となります。
スポーツ現場では、ただ「トレーナー」というだけでは、具体的にイメージできないと思います。
しかも、「トレーナー」は名称独占の資格ではないので、誰でもトレーナーと名乗る事ができます。
このような背景も相まって、トレーナーという言葉は、古くから日本のスポーツ現場で使われてきた言葉の割には、各個人や各スポーツ現場で言葉の捉え方が異なる部分のある言葉だと私は思います。
私自身も「スポーツの現場でトレーナーとして活動したい」と考えて、自称トレーナーとしてスポーツ現場に出向いていました。
先輩のトレーナーの方々の後ろについて勉強をしつつ、見様見真似でトレーナー活動に臨んでいました。
しかし、「トレーナーって何をする仕事なの?」と聞かれると、明確に答えられない時期が続いていました。
アスレティックトレーナーとは?
私はスポーツ現場におけるトレーナー活動を続ける中で、自分の活動の軸をハッキリさせたいと考える様になりました。
そして、スポーツ現場におけるトレーナーの資格に関して調べてみました。
アメリカではアスレティックトレーナー(Athletic Trainer:AT)という職業が確立しています。
Athleticには「運動競技の」という意味があるので、トレーナーという言葉よりもスポーツ現場に即したイメージを持つ事ができると私は感じました。
アメリカのアスレティックトレーナーの職能団体である全米アスレティック トレーナー協会(National Athletic Trainers' Association:NATA)
そのNATAから独立した資格認定委員会(Board of Certification:BOC)の公認をうけたアスレティックトレーナーの事を「Athletic Trainer, Certified:ACT」やBOC-ATCと呼びます。
BOC-ATCは以下の5つの職業領域に関する教育や訓練を受けて評価されるそうです。
1.傷害・疾病の予防と健康の保護
Japan Athletic Trainers' Organization,NATA/ATCとは(2022年2月10日参照)
2.臨床評価と診断
3.応急処置と救急処置
4.治療的介入
5.医療管理と職務上の責任
https://www.jato-trainer.org/about-jato/about-nata-atc/
また、BOC-ATCの重要なポイントとして以下の点が挙げられます。
BOC-ATCは、教育訓練、州法、規則および規制に従って医師の指示または協力を得ながら治療またはサービスを提供する医療従事者です。
Japan Athletic Trainers' Organization,NATA/ATCとは(2022年2月10日参照)
医療チームの一員として、ATCによるサービスには、外傷障害や疾患の予防、健康促進と教育、緊急対応、検査と臨床診断、治療介入、傷害および疾患のリハビリテーションが含まれます。
*アスレティックトレーニングは、米国医師会(AMA)によって医療業として認められています。
https://www.jato-trainer.org/about-jato/about-nata-atc/
アメリカにおいて、BOC-ATCは医療従事者として認められているようです。(おそらく州ごとに扱いが異なる部分もあるはず)
私は、BOC-ATCについて専門的に学び資格を取得した訳ではないので、これ以上深くは言及できません
しかし、アメリカのスポーツ現場において
アスレティックトレーナーの職域がきちんと定義され、法的に認められている事を踏まえると
私自身のスポーツ現場における活動の軸として「アスレティックトレーナー」という言葉の方が適切ではないかと思いました。
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーとは?
では、日本においてBOC-ATCと同様の資格はないのでしょうか?
日本における「アスレティックトレーナー(以下、AT)」の資格を認定する団体は私の知る限り2種類あります。
・日本スポーツ協会
・ジャパン・アスレチック・トレーナーズ協会
上記2つのうち、私が取得したのは「日本スポーツ協会公認のアスレティックトレーナー」です。
Japan Sport Association:JSPO が公認するAthletic Trainer:AT なのでJSPO-ATと表記されることもあります。
JSPO-ATは、NATAのBOC-ATCを参考にして1994年に養成が開始された制度です。
しかし、JSPO-ATはBOC-ATCような医療従事者と認められた資格ではありません。
その役割は以下の様に説明されています。
本会公認スポーツドクター及び公認コーチとの緊密な協力のもとに、競技者の健康管理、外傷・障害予防、スポーツ外傷・障害の救急処置、アスレティックリハビリテーション、トレーニング及びコンディショニング等を担当する
山本利春,日本体育協会アスレティックトレーナーの役割,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト1,p29,公益財団法人 日本体育協会,2017.
上記の様に、公認ドクターや公認コーチと同様に日本スポーツ協会の公認スポーツ指導者制度の範疇にある資格です。
さらに、その具体的な内容は以下の7項目とされています。
・スポーツ外傷・障害の予防
山本利春,日本体育協会アスレティックトレーナーの役割,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト1,p29,公益財団法人 日本体育協会,2017.
・スポーツ現場における応急処置
・アスレティックリハビリテーション
・コンディショニング
・測定と評価
・健康管理と組織運営
・教育的指導
では、それぞれ詳しく説明していきたいと思います。
JSPO-ATの役割
スポーツ外傷・障害の予防
「予防は治療に勝る」という言葉がありますが、まずは現場の安全管理として様々なアクシデントを予防する事が重要です。
文言上は「スポーツ外傷・障害」となっていますが、予防するのは整形外科領域のトラブルだけではありません。
貧血・熱中症などの内科疾患に加え、摂食障害や過換気症候群(いわゆる過呼吸)のような精神的な問題によるトラブルも未然に防ぐ必要があります。
スポーツ現場でみられる様々な問題は「身体的因子」「環境的因子」「心理的因子」によって引き起こされます。
そこで、各要因に合わせた予防アプローチが必要となります。
- 身体的要因に対するアプローチ
→病気や有無の確認や医学的な検査(内科的メディカルチェック)
→怪我の有無の確認や関節や筋・腱・靭帯の検査(整形外科的メディカルチェック)
→筋力や柔軟性、持久力など全身体力検査(フィットネスチェック)
→上記の検査結果を元に運動内容を調整したり、予防目的のテーピングやトレーニングを実施する - 環境的因子
→気候条件(天候・気温・湿度・気圧など)のチェック
→競技施設や設備(床面の状態、使用する道具など)のチェック
→予想される問題(熱中症、床でのスリップ)に対して対応 - 心因的因子
→オーバートレーニング症候群や摂食障害、その他精神的ストレスに起因する疾患の徴候に注意を払い、早期に専門家に相談する
実際には、各要因が独立している訳ではないので、そう簡単にトラブルは予防できません。
しかし、様々な要因に目を向けることを常に意識しなくてはいけません。
スポーツ現場における救急処置
これは、スポーツ現場においてアスリートの身近にいるATが担うべき重要な役割だと思います。
病院に勤めていても「怪我をした直後の選手」の対応をする事はないし、その為の知識・技術を学ぶ機会は多くありません。
もちろん、上記で述べているようにJSPO-ATは医療資格ではないので、法律で許された範囲の処置しかできません。
しかし、命に関わる重大な現場になるほど、救急処置の重要性も増してきます。
・傷害(いわゆる怪我)
→皮膚損傷・靭帯損傷・筋損傷・骨折など
・内科的疾患
→熱中症や貧血・過換気症候群など
といったトラブルに対する救急処置はもちろん、「心停止」「呼吸停止」「大出血」のような命に関わる緊急事態において、ATが現場をコントロールしながら救急処置に臨まなくてはいけません。
私も、今まで何度も救急車を呼ぶような事態に遭遇してきましたが、その度に様々な対応を見直して、日頃から「もしもの場合」に備えた準備をしないと、咄嗟に動く事はできません。
アスレティックリハビリテーション
アスレティックリハビリテーション、略してアスリハと呼んだりします。アスリハという言葉に関しては様々な文脈によって微妙に意味が異なる部分があると私は感じます。
まずはアスリハという言葉に関して、私が学んだJSPO-ATの教本の内容を確認したいと思います。
スポーツ外傷(急性外傷,慢性外傷),外傷後遺症,疾病などの理由によって,スポーツ活動の休止や制約を受けている対象者を,より良い身体の状態でスポーツに復帰させることを目標とする.
小林寛和,日本体育協会アスレティックトレーナーの役割,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト1,p40,公益財団法人 日本体育協会,2017.
ザックリ捉えると、スポーツに取り組むアスリートに対するリハビリテーション、という事かと思います。
これだけ読むと、私が理学療法士として関わって来た「スポーツ理学療法」と重なる部分があるように感じます。
また、「アスレティックリハビリテーション」という言葉が、BOC-ATCの一連の業務内容を表す「アスレティックトレーニング」と混同しやすい点に関しても個人的に気になりました。
この点に関しては、後で改めて述べさせてもらいたいと思います。
コンディショニング
コンディショニング Conditioningという英語の意味を調べると「(心身を)調整する」といった内容が出てきます。
転じて、スポーツ現場におけるコンディショニングは、以下の様に説明されています。
定義:より高い競技能力の発揮に必要なすべての要因を望ましい状態に整えるための働きかけ.
鹿倉二郎,日本体育協会アスレティックトレーナーの役割,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト1,p35,公益財団法人 日本体育協会,2017.
なんでもあり、という感じの定義ですね苦笑
競技能力を発揮させるためには様々な要因があります。
・身体的要因
・技術的要因
・医学的要因
・精神的要因
・その他要因
いわゆる、勝つため・強くなるために必要な取り組み全てを指します。
具体的には、様々なトレーニングやストレッチ・マッサージなどの手法、休養や栄養の状態を整える働きかけなどを行います。
測定と評価
ここまで説明してきたような役割に臨むためには、選手自身や選手を取り巻く環境の状態を把握しなくてはいけません。
・全身状態
→姿勢やバイタル(心拍数・呼吸・血圧・体温)など
・関節可動域検査
→関節の動かせる範囲、不安定性の有無
・筋力測定
→徒手的筋力測定、測定機器を用いた筋力測定
・整形外科的検査
→骨・関節・筋・腱・靭帯の状態を検査
・各種体力測定
→柔軟性,持久力,敏捷性,瞬発力など
・その他
こういった測定を正しく実施する事だけでなく、測定データを正しく分析できなくてはいけません。
その上で、取り組むべき課題や問題点を見出していきます。
健康管理と組織運営
健康管理は、ここまで説明してきた様々な役割と密接に関わっています。
様々な評価データを元にして、生活習慣や食事・ドーピングコントロールなどを通してスポーツ選手の健康管理に臨むため、幅広い知識や業務内容が必要となります。
特に、ドーピングに関しては世界アンチドーピング機構(World Anti-Doping Agency:WADA)や日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency:JADA)からの情報収集が必要不可欠です。
故意でないドーピングだったとしても、決して「知らなかった」では済まされない世界です。
組織運営に関しては、アスリートを取り巻く様々な人達との連携体制を構築する事です。
・アスリート
・コーチ
・マネージャー
・ストレングスコーチ
・メンタルコーチ
・栄養スタッフ
・メディカルスタッフ
・家族
・その他
このように、アスリートには大勢の人間が関わる可能性があります。
実際は、アスリ―ト個人や競技によって状況(関わる人間)は大きく変わります。
その時々のアスリートを取り巻く状況を踏まえて、自身のATとしての役割を実行しなくてはいけません。
そのためには「自分が出来る事・やるべき事」と「他のスタッフが出来る事・やるべき事」を明確にすることが重要だと私は考えています。
教育的指導
ATは、アスリート自身に自己管理能力を身に着けてもらうように教育的な指導を行う役割も担っています。
Trainerという言葉には「指導者」という意味が含まれること、JSPO-ATが公認スポーツ指導者資格の範疇にある事を踏まえると当然と言えば当然です。
アスリートに対し「教育的指導」を実施するというATの立場がある以上、両者の間に上下関係が生じてしまいがちです。
自分自身が「相手の立場に立つ事を忘れて」知らぬ間に様々なハラスメントを引き起こしていないか、常に注意する事が大切だと私は考えています。
日本におけるATの役割
※ここから先の内容は大谷の個人的な見解が多分に含まれます
JSPO-ATの役割について説明してきましたが、その役割は多岐に渡ります。
私自身は、スポーツ現場でトレーナーとして活動する中で「何でもやれないといけない」と感じていました。
実際にJSPO-ATの養成講習会を受講しながら、私は曖昧であった自分自身のトレーナー像を「ATはスポーツ現場におけるジェネラリストであるべき」だと固めていくことが出来ました。
しかし、実際のところ日本において「トレーナー」という言葉や「アスレティックトレーナー」という言葉の定義が曖昧であると感じています。
私はスポーツ現場における自分の立場はATであると思っていますが、実際のスポーツ現場では、アスレティックトレーナーやATという言葉を使っても相手に伝わらない事も多いです。
結局のところ、トレーナーと名乗った方が話が早い場合が多いです。
また、さまざまな場面で「ATの専門分野はアスリハだ」という意見を見聞きする事があります。
JSPO-ATの役割については上で説明した通りですし、BOC-ATCの職業領域については以下のように説明されています。
1.傷害・疾病の予防と健康の保護
Japan Athletic Trainers' Organization,NATA/ATCとは(2022年2月10日参照)
2.臨床評価と診断
3.応急処置と救急処置
4.治療的介入
5.医療管理と職務上の責任
https://www.jato-trainer.org/about-jato/about-nata-atc/
この文面から読み解く範囲では、BOC-ATCの職業領域も幅広いように私は感じます。
また、アメリカのBOC-ATCにおいて、その専門領域自体をアスレティックトレーニングと呼ぶそうです。
一方で、NATAやBOCのサイト上で「athletic rehabilitation」というワードで検索をかけてもヒットする内容はありませんでした。
このような点から、私は「アスレティックリハビリテーション」という言葉が、BOC-ATCの一連の業務内容を表す「アスレティックトレーニング」と混同されているのではないか?と考えました。
JSPO-ATの役割である「組織運営」の説明で述べたように、アスリートには様々なスタッフが関わる場合があります。
そのような状況では、他のスタッフの専門領域を尊重し補うために、ATでしか出来ない事に集中するべきだと思います。
しかし、私が関わってきた佐賀県のような地方のスポーツ現場では、多職種のスタッフがアスリートをサポートするような恵まれた環境は多くありません。
大谷自身が身を置く環境において、少なくともJSPO-ATの資格を持つ人間として、私は「ATはスポーツ現場におけるジェネラリストであるべき」だと考えています。
これは私自身がアスリートに対し「どのような形で関わっていきたいのか」という話であって、決して現場におけるスペシャリストを否定したいわけではありません。
その点、どうか御了承下さい。
さいごに
今回改めて自分の保有資格について情報を整理する事で、
自分自身のスポーツ現場に向かう姿勢も確かめる事が出来ました。
久しぶりにJSPO-ATの教本を開きましたが、改めて内容の幅広さを痛感しました。
現場のアスリートの為に、本当に色んなことを勉強しないといけません。
冒頭で説明したように十数年ぶりに日本スポーツ協会のATカリキュラムが改訂されるようです。
あくまで、今回の話は大谷が養成講習会を受講した2017年当時の情報を元にした内容である事に御注意ください。
しかし、私がどのような思いでスポーツ現場に臨んでいるのかは伝わる内容かと思います。
カリキュラムの改定に関しては、また改めて情報を整理していこうと思います。