ここまで、私の保有する資格について説明をさせて頂きました。
- 理学療法士
- 修士号(医科学)
- 日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
- Certified Strength and Conditioning Specialist:CSCS
(各項目をクリックすれば、詳しく説明した投稿をご覧になれます)
そして、いよいよ私が最後に取得した資格であるCertified Strength and Conditioning Specialist:CSCS について説明していきたいと思います。
なぜCSCSの資格を取得したのか?
私は理学療法士として病院におけるリハビリテーションに従事しつつ、アスレティックトレーナーとしてスポーツ現場におけるアスリートのサポートに臨んできました。
JSPO-ATの幅広い役割を学びながら、私はアスレティックトレーナーとして「ジェネラリストとなりたい」と考えるようになりました。
しかし、その幅広い役割の中で自分に欠けていると感じたのが「コンディショニング」に関する知識と技術です。
私が受講したJSPO-ATの養成課程における「コンディショニング」の説明は以下のようになっています。
定義:より高い競技能力の発揮に必要なすべての要因を望ましい状態に整えるための働きかけ.
鹿倉二郎,日本体育協会アスレティックトレーナーの役割,公認アスレティックトレーナー専門科目テキスト1,p35,公益財団法人 日本体育協会,2017.
コンディショニングは「アスリートが勝つために必要なすべての事」ともいえるため、非常に幅広く奥深い内容です。
私は医療機関でアスリートと接する時間が長く、多くの場合は「スポーツ傷害からの復帰」に携わります。
しかし、往々にしてスポーツ現場では時間的な制約が設けられるため、パフォーマンス向上まで段階を踏んでコンディショニングを実施できない事がほとんどです。(詳しくは以前の投稿をご覧ください)
私は理学療法士としてのバックグラウンドを持つATなので、傷害により低下した機能を向上させるリハビリテーションに関する知識や技術に重きをおいて学んできました。
もちろん、リハビリテーションの過程で身体機能を向上させ、結果的に競技パフォーマンスが向上する事は多々ありました。
しかし、最初からパフォーマンス向上を目的にして、アスリートの身体機能を向上させるコンディショニングの分野に関しては専門的に学んできません。
正直な話、アスリートのコンディショニングに臨む際は、自分自身が陸上競技者としてトレーニングを続けてきた経験に頼っていた部分もありました。
もちろん、私が受講したJSPO-ATの養成講習会では「予防とコンディショニング」というカテゴリーで90時間の学習カリキュラムが組まれ、座学・実技を交えて学習してきました。
最低限のことは学ばせて頂いたと感謝していますが、コンディショニングに関するバッググラウンドのない私にとって、決して十分な時間とはいえません。
このような背景から、私は自分に足りないコンディショニングに関する知識や技術を勉強しなくてはいけない。と決意して、CSCSの資格取得を目指しました。
CSCSとストリングス&コンディショニング
CSCSとは、全米ストレングス&コンディショニング協会(National Strength and Conditioning Association:NSCA)という団体が認定している
ストレングス&コンディショニング(Strength&Conditioning:S&C)という分野の資格です。
Strength&Conditioningは、コンディショニングと何が違うのでしょうか?
まずStrengthに関して、NSCAでは以下の様に説明されています。
筋力、パワー、筋持久力のみならずスピード、バランス、コーディネーション等の筋機能が関わるすべての体力要素に不可欠な能力です。
NSCAジャパン,ストレングス&コンディショニングとは(2022年2月10日参照)
単に力発揮の大きさを表すだけでなく、状況に応じて適切に筋活動をコントロールするための「神経-筋系全体の能力」と定義されます。
https://www.nsca-japan.or.jp/01_intro/sandc.html
conditioningに関しては、JSPO-ATと同様に「勝つために必要なすべての事」と考えて良いと思います。
つまり、Strength&Conditioning:S&C は、幅広いコンディショニングにおいて筋機能を高めるストレングストレーニングの役割に重きをおいた分野であるという事です。
NSCAが認定するS&Cの資格は以下の2種類があります。
・Certified Strength and Conditioning Specialist:CSCS
→傷害予防とスポーツパフォーマンス向上を目的にアスリートやスポーツチームを指導する資格
・NSCA Certified Personal Trainer:NSCA-CPT
→健康や体力増進のニーズに対し幅広い層に対してトレーニングを指導する資格
そして、私はCSCSの資格取得を目指した勉強を通してS&Cについて学んでいきました。
S&Cとは何を学ぶのか?
CSCSの資格はS&Cに関する知識を問う試験(コンピュータでの試験)を合格する事によって得られます。
いわゆる筆記試験の為に勉強をしていく事になるので、CSCSの出題内容を提示することで、S&Cについて必要な知識が分かってもらえるかと思います。
以下、NSCAジャパンのサイト上にある出題範囲の要約です。
・エクササイズサイエンス
NSCAジャパン,CSCS出題範囲(2022年2月10日参照)
→解剖生理学、バイオメカニクス、トレーニングに関する内容
・スポーツ心理学
→心理状態とパフォーマンスの関係性や心理学的側面からの適切なアプローチ方法など
・栄養学
→食事・サプリメントなど、S&Cコーチとしてのアスリートに対する栄養指導に必要な知識
・エクササイズテクニック
→様々なエクササイズの正しいテクニック
・補助の方法・エラーの修正法・プログラムデザイン
→適切なトレーニングプログラムを計画する為の知識と応用力
・組織と運営
→施設基準とその運営、訴訟問題や法的責任のリスクを最小限に抑えるための方法等
https://www.nsca-japan.or.jp/exam/certification/index.html#cscs-range
このような幅広い知識が必要となりますが、理学療法士やJSPO-ATとしての知識と重なる部分も多く、大谷個人としては楽しく勉強できました。
しかし、CSCS資格取得を目指して勉強していく中で、とても感動した事があります。
それは「NSCAは根拠に基づいたS&Cを実践しようとしている」という事。
NSCAの学習用教材のテキストでは、多くの研究論文を元に、多面的な角度から根拠を見出そうとしていました。
参考文献の数はなんと2482件!(NSCA決定版ストレングストレーニング&コンディショニング,第4版)
もちろん文献の数が多ければ良いというものではありません。
気になった部分は引用元の文献を直接確認するなど、記載内容を安易に受け入れないような批判的な姿勢も必要です。
しかし、「根拠に基づいた実践」を学ぶために大学院に進んだ私にとって、S&Cは1つの科学だと感じられました。
私が長らく身を置いてきた、理学療法の分野も見習うべき部分があると思います。
ストレングスコーチとは?
アスリートに対し、パフォーマンスの向上や傷害予防を目的としたストレングストレーニングを指導する職業をストリングスコーチと呼びます。
NSCAのS&Cの考え方に従えば、S&Cコーチと呼んでも良いと思います。
しかし、ストレングスコーチやS&Cコーチもトレーナーと同様に名称独占の権利があるわけではありません。
名乗ろうと思えば、誰でもS&Cコーチと名乗り働く事は可能です。
CSCSの資格は上述したように、知識を問う筆記試験で合否が決まる資格です。
S&Cコーチとしての必要最低限の知識を担保する資格であり、指導者としての技術が認められたわけではありません。
私も自身の技術的な部分を補うために、実際にCSCSの資格を持つS&Cコーチの方から指導を受けたり、S&Cの知識を元にして自分自身でストレングストレーニングを重ねています。
CSCSの資格を取得する前のように、自分のトレーニング経験だけに頼ってはいけません。
しかし、半端な知識を得た事で、逆に「頭でっかち」になってもいけません。
この分野を上手に取り入れていけるように、バランスを保ちながら今後もS&Cについて学んでいきたいと思います。
さいごに
CSCSの資格を取得して数年経ちますが、私は自分の事を「ストレングスコーチ」だとは思っていません。
この分野の勉強をすればするほど、自分の未熟さを思い知らされて日々精進しています。
しかし、私が身を置く環境では、アスリートの身近にS&Cコーチがいる訳ではありません。
やはり、アスレチックトレーナーとして選手のコンディショニングに臨む必要に迫られます。
その時に「根拠に基づくS&C」が行える様に、私はCSCSの資格の取得を通して学んだS&Cの考えを大事にしたいと考えています。